東京高等裁判所 昭和62年(う)367号 判決
被告人 黒木千春
〔抄 録〕
記録を調査して検討するに、本件証拠物である覚せい剤を始め、鑑定書、被告人の自白調書その他原判決挙示の関係証拠はいずれも証拠能力を認めることができる。すなわち、本件における職務質問から採尿検査までの捜査の経過についてみるに、関係証拠によれば、ほぼ原判決が「弁護人の主張に対する判断」の項において認定したとおりの事実が認められるところ、右事実によれば、右一連の経過のうちでも特に任意同行の段階において、被告人の拒否的態度が明白であり、警察官らの捜査の進めかたに有形力の行使の点を含めやや強引な点があるうえ、被告人の承諾がないのに、被告人の左足首付近の靴下のふくらんだ部分から中のものを取り出した警察官の行為は、捜索に類する行為であり、要するに、本件における職務質問及びこれに付随する任意同行、所持品検査の一連の捜査は、本件の具体的な状況のもとにおいては、任意捜査としての許容限度を逸脱した違法なものというほかないが、他方、本件においては職務質問の要件が存在し、所持品検査の必要性と緊急性が認められる状況であったこと、被告人は警察官らに対し反抗的な態度を取っていたとはいえ、パトカーに乗車する行為自体については、最終的には、警察官らの要請に応じる形で渋々ながらも自ら車内に乗り込んだこと、本件における警察官らの有形力の行使に暴力的な点はなかったこと、本件は、被告人が警察官らの職務質問に当初から素直に応じていれば、その場において簡単な所持品検査の結果容易に覚せい剤が発見され、覚せい剤所持の現行犯人として逮捕される可能性のあった事案であり、被告人が執ように反抗的態度を取ったために無理な任意同行や所持品検査に発展したのであって、警察官らにおいて令状主義に関する諸規定を潜脱する意図はなかったこと、採尿手続自体については、なんら警察官の有形力は行使されておらず、警察官の忍耐強い説得の結果により被告人が任意に排せつして提出した尿を押収していること等の事実を考慮すると、右違法は必ずしも重大であるとはいえず、右手続により収集した本件証拠物等を被告人の罪証に供することが、違法な捜査の抑制の見地から相当でないとは認めがたいから、本件証拠物等の証拠能力はこれを肯定すべきである。
(内藤 本吉 稲田)